菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜千里の道も一歩から〜

菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜共生の共創・自分らしく生きる〜

神奈川県議会議員菅原直敏の議会報告のブログです。神奈川県大和市選出。無所属。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士。

第2章 制度の概要 4.議員年金は本当に『特権的』制度か

4.議員年金は本当に『特権的』制度か 批判の中身  制度導入以来、地方議会議員年金制度には多くの批判がなされてきた。特に公的年金との比較において、地方議会議員年金の特異性に着目するものが多い。しかし、批判の中には根拠が薄弱なものも少なくなく、逆に地方議会議員年金制度についての適正な議論を阻害していることもある。地方議会議員年金を考える際に、便宜的に公的年金と比較するが、根本的な制度の違いが存在するために、常に適正な比較にならないことも念頭に置かれたい。 受給資格期間の短さ  受給資格期間が、国民年金が25年であるのに対して、地方議会議員年金は12年である。この為、国民年金よりも短い期間で受給資格を得ることは優遇されているという批判がある。  まず、地方議会議員国民年金の加入義務があり、地方議会議員年金の掛金とは別に、国民年金の掛金を支払っている。従って、基礎年金である国民年金地方議会議員年金の受給資格期間を単純に比較することは妥当ではない。このような批判は年金の給付水準も掛金に比して高く、国民年金が任意加入であった時代には成り立つが、現行制度下では、議員も25年間以上の国民年金の保険料を支払うことが期待されるわけだから、批判としての論拠に乏しい。  また、それでも国民年金を支払わない議員もいることも想定されるわけであるが、前述したように現在の地方議会議員年金の議員負担割合は公的年金よりも特別低いわけではなく、むしろ国民年金の保険料を支払わないことは、自ら老後を不安定にする選択であり、特殊な事例を除いて国民年金の保険料を掛けないという動機は働きにくい。議員の中には、地方議会議員年金制度に対する不信から国民年金基金に加入している者もいる(受給要件の1つは、国民年金の保険料を納めていること)。  逆に、地方議会議員年金を基礎年金の上乗せであると擬制し、厚生年金の2階建て部分と比較すると、他の年金制度では基礎年金の保険料を25年以上納めていれば、その支払期間(一年未満は除く)に関わらず、支払った分の年金は加算されるのに対し、基礎年金の受給要件を満たしても、12年の受給期間が必要とされるため、見方によっては冷遇されているともいえる(それを補完するために退職一時金が設けられたが、退職一時金は議員の老後保障にはなり得ない)。さらに、12年という受給資格期間は、落選という自らの意図しない要件によって、老後保障である年金の受給が制限されるという観点からはむしろ問題視されるべきである。  以上より、地方議会議員年金の受給要件として、国民年金の受給要件の充足を要件とすることは望ましいが、受給資格期間の短さをもって地方議会議員年金が特権的であるという批判は当てはまらない。 被用者年金との重複需給が可能  被用者年金と重複加入ができることに対する批判がある。しかし、昭和49年の法改正により被用者年金との調整措置が立法化されており、重複期間における公費負担相当分は控除される仕組みが導入された(法161条の2)。また、平成14年法改正により、重複期間の控除の割合が25%から40%に引き上げられた。これは当時の公費負担率である4割程度とほぼ符合する。従って、被用者年金との重複期間の存在によって、議員は自己が支払った掛金以上の恩恵を受けているわけではないので、この批判は当てはまらない。 議員年金間の重複需給が可能  市町村議会議員を12年以上、都道県議会議員を12年以上務めると、両方の地方議会議員年金を受給できるという批判がある。さらに、公的年金やかつての国会議員年金も含めて、年金の二重・三重取りという風に揶揄される。  確かに、地方議員という枠組みで括ると、各共済会を分ける必然性は乏しく、特権的である。しかし、平成21年3月31日現在、2つ以上の区分の地方議会議員共済会の年金受給者である者は、県・市で321名、県・町村で43名、合計で364名であり、受給者全体に占める割合は0.59%である(20)。つまり、重複受給者は統計的には相当な例外であり、この事例を一事が万事的に制度批判として用いることは妥当性を欠く。  また、例えば市町村議会議員を8年、都道県議会議員を8年務めて引退した場合、逆に年金を受け取ることはできず、掛金の4割強が掛捨てになる。統計的には、年金の重複需給者の数よりも、このような制度の不備によって年金を受給できない者の数の方が圧倒的に多く、これら掛捨て者の犠牲によって年金財政が支えられていることも事実である。重複需給が問題であることは否定しないが、同様に市町村議会議員及び都道県議会議員を相当年数務めてきた者の掛金が掛捨てになっている現状にも光を当てなければならない。 退職一時金の存在  公的年金と違い、退職一時金(法161条の3)があることが批判される。公的年金の加入期間が25年未満の場合、原則退職一時金などの制度で掛金が還付される仕組みがないことと比較しているものと思われる。  しかし、公的年金の保険料の支払いは本人が望めばできるが、議員は落選という不確定な要素に左右されるため、本人が望んでも12年間掛金を掛け続けられない場合もある。また、退職一時金を導入する昭和40年の法改正前までは、任期が12年に満たない者の掛金は掛捨てであり、実際に多くの掛捨て者が出ていた。  地方議会議員年金の目的が議員の老後保障にあるならば、他の公的年金と同様に加入期間を通算する仕組みがあってしかるべきである。従って、退職一時金は必ずしも議員を優遇する制度とは言えず、現状の年金制度体系の不備を補うための苦肉の策であるといえる。 転給制度の存在  地方議会議員年金制度には、共済年金同様に転給制度があり、共済年金を除いた他の年金制度よりも優遇されているという批判がある。被用者年金制度の一元化の議論の中で、共済年金の転給制度の廃止の方向性も定まっており、この点については、廃止することが妥当である。 なお、転給制度とは、遺族年金受給者の死亡時に、所得等の一定条件を満たした同・後順位の遺族がいた場合、その最優先順位者に受給権が引き継がれる制度である。 (20)第2回地方議会議員年金制度検討会『資料1:地方議会議員年金制度の現状について』平成21年5月29日,p11