菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜千里の道も一歩から〜

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神奈川県議会議員菅原直敏の議会報告のブログです。神奈川県大和市選出。無所属。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士。

第3章 制度の比較 2.米国の地方議員年金の現状

国際的制度比較論の重要性

 あらゆる制度設計に言えることであるが、諸外国の制度を比較検証することは必要不可欠である。国民年金や被用者年金における国会の論戦においても、国際的な比較に基づいた議論が展開されている。しかし、地方議会議員互助年金制度の導入時にも同制度が地方公務員等共済組合法に合流する時にも、地方議会議員年金制度の国際的な制度比較をまったく行わず、国会議員互助年金法に準じて、当事者である地方議会議員等の意向を受ける形で制度が制定されている。近年も共済会や総務省を中心として地方議会議員年金制度における研究会や検討会が数回に渡り開催されているが、その傾向は変わらない。

 全ての地方議会議員が強制加入である独自の地方議会議員年金制度を用意している国は、世界でも日本だけである。日本の市町村にあたる基礎自治体レベルでは、議員職を低額な費用弁償で務める者が多く、地方議会議員年金制度が存在する自治体は多くない。そこで、筆者が調査し得た事例を中心に米国の地方議会議員年金制度の現状について紹介する(22)。

(22)なお、欧州も含めた地方議会議員年金制度の本格的な国際比較については、渡部記安氏の『国際比較からの考察 中央議会(国会)・地方議会議員年金制度』(株式会社朝陽会)が大変詳しいので参照されたい。

多様な米国の地方自治制度

 アメリカ合衆国は、50の州と1つの特別区からなる連邦国家である。連邦政府は、合衆国憲法第1条第8節に限定列挙された18項目以外の権限を持たないとされ、各州に大幅な権限が存する。従って、地方自治制度も各州の憲法や法律で定められるため、非常に多様な地方自治制度が存在する。

 大きな傾向としては、州の下にカウンティ(county)という広域自治体が存在し、カウンティの下にシティ(city)、バラー(borough)、ヴィレッジ(village)といった日本でいう基礎自治体が存在する。これらを総称して自治体(municipality)と呼び、法人化区域(incorporated area)とも表現される。しかし、全ての地域に自治体が存在するわけではなく、自治体が存在しない未法人化区域(unincorporated area)も存在する。未法人化区域の行政サーヴィスについてはカウンティが行っている。以上は概括的な傾向であるが、詳細を見てみると州ごとに様々な違いがみられることは留意されたい。

 なお、2002年時点において、カウンティは3,034、自治体は19,429存在する(23)。総務省の発表によると平成22年3月末の日本の市町村数は約1,750であり、米国の自治体の多さが際立っていることがわかる。

(23)U.S. Census Bureau, Statistical Abstract of the United States: 2009, Table No.410, p.259なお、学校区(school district)及び特定区(special district)は除いている。

米国の地方議会の現状

 米国の地方議会議員はボランティアであるという表現がしばしばされるが、実際日本の基礎自治体にあたる自治体の議員報酬は低額である。例えば、米国の地方議会議員は、「大都市の専門職議員に対する報酬は別として、大半の『非常勤』議員の報酬はゼロないし極めて少額しか支給されず、せいぜい出席当日の旅費が支給される程度に過ぎない(24)」。これに対して、日本の地方議員に関して、町村議会議員の平均報酬年額は357万円(25)、市議会議員の平均報酬年額は715万円(26)である。議会によってはその他に役職手当や費用弁償を別途手当てしている。

 次に、州議会議員の報酬は、専業議員によって構成されるとされる10の州議会の議員の平均報酬年額は68,599ドル(約617万円)であるが、非専業議員で構成されるとされる17の州議会の議員の平均報酬年額は15,984ドル(約143万円)である。一方、日本の都道県議会議員の平均報酬年額は1,370万円(27)であり、議会によっては報酬に加えて役職手当や費用弁償等、任期中に数百万円の手当が支給される議会もある。

 但し、米国の地方議会議員は、報酬が低額であるが、職責に対していい加減というわけではない。「人口2500人以上の自治体に対するICMAの調査(1996年)によれば、(基礎自治体)議会の開催回数は、月2回が全体の3分の2強(69.1%)となっており、月3回以上が10%強で、そのうち週1回ないしそれ以上開催するところは7%となっているに過ぎないが、人口50万人以上100万人未満の都市では71.4%、25万人以上50万人未満では56%が毎週議会を開いている(28)」。月2回程度の開催とは大変少ない印象を受けるかもしれないが、議員数はたいてい5~7名程度と少なく、議場が住民に開かれており、議員全てが議論に参加するため、議会活動において各議員にかかる負担は大きい。実際、筆者が面談した議員は総じて職務に対して熱心であった。

 これに対して、日本の町村議会の平均会期日数は41.2日(29)、市議会で76.2日(30)である。しかし、会期日数とは初日から最終日までの期間を指し、実際の開催日数を表すわけではない。従って、その間の休会日等を除けば、実際に議員が出席する会議はその半分程度あり、発言をする等議事に主体的に関わるのは更にその半分程度である。また、その発言の機会すら放棄して、任期中ほとんど発言しない議員も少なくない。議員は20~40名程度であり、住民の発言等は基本的に許されておらず、議員同士の議論はほとんど存在しない。従って、議会活動における各議員の負担は米国のそれに比べて少ない。

 また、州議会は完全な立法機関であり、州議会議員の職責は都道県議会議員のそれよりも大きい。立法作業と議論が議会活動の主体であり、議員にも相当な役割が期待されるため、各議員はスタッフを抱えて、日夜職務に励んでいる。

 このような客観的な比較からも、米国の地方議員の仕事量は、日本のそれに勝ることはあっても決して劣ることはない。

(24)小滝敏之『アメリカの地方自治』2004年,p241

(25)全国町村議会議長会『第54回町村議会実態調査』2009年,p13「13 議員報酬・委員長報酬・監査委員報酬・特別職報酬等審議会(表26~30)」の平均報酬月額を基準に筆者が算出(期末手当は5カ月分)

(26)全国市町村議会議長会『市議会議員報酬に関する調査結果』2007年,p2「1.全国「802 市」の市議会議員の平均報酬月額」の平均報酬月額を基準に筆者が算出(期末手当は5カ月分)

(27)総務省『平成20年 地方公務員給与の実態』2008年,「第9表特別職に属する職員の定数及び平均給料(報酬)月額」平均報酬月額を基準に筆者が算出(期末手当は5カ月分)

(28)小滝敏之『アメリカの地方自治』2004年,p241

(29)全国町村議会議長会『第54回町村議会実態調査』2009年,p21

(30)全国市議会議長会市議会の活動に関する実態調査』2008年,p7

州議会議員の年金制度

 州議会議員の年金制度は、各州が定めているために多様である。全米50州の内、州議会議員に対する年金制度を定めているのは40州、年金制度を定めていないのは8州、かつては年金制度が存在したが廃止になったのは2州である。年金制度を定めている40州の内、強制加入の制度と選択加入の割合は半分の20州ずつであった(31)。

 年金制度の制度設計については、州議会議員のみを対象にした制度もあるし、一般の州職員の制度に加入する制度もある。受給資格は、3年間で得られる州(Pennsylvania州)もある一方で、10年間を要する州(Alaska州等)もある。支給開始年齢は、60~65歳が最も多いが、条件によっては50歳から支給を受けることができる州もある。

 現役時代の掛金率は、負担がない州(Missouri州等)から15%(Nevada州)まで様々であるが、5~10%の間が比較的多い。また、年間100~500ドルといったように定額拠出金を採用する州もある(New Mexico州)。よって、支給額を算出する方法も各州で異なる。

例えば、Pennsylvania州の年金算出方式に従って、12年間州議会議員を務めた場合の年金額を試算すると、年間25,072ドル(約225万円)となる。また、Nevada州で同様の場合で試算すると、年間3,600ドル(約32万円)となる。但し、Pennsylvania州の現役時代の報酬は年額69,647ドル(約627万円)であり、Nevada州の報酬は130ドル(約1.2万円)/日(最大で60日)である(32)。

 以上から、州議会議員に対する年金制度は多様であり、日本の地方議会議員年金制度のように一義的に説明することはできない。但し、年金制度を採用する州でもしない州でも、その判断は州民によるものであるという点が重要である。

(31)THE BOOK OF THE STATES 2009 EDITION VOLUME 41

(32)㈶自治体国際化協会『CLARE REPORT No.299 米国の州議会の概要』2007年

米国の基礎自治体における地方議会議員年金制度

 前述したように米国の自治体数は大変多い。また、日本の基礎自治体地方自治法の下画一的な自治体運営を行っているのとは対照的に、それぞれの自治体が住民自治によって様々な自治体運営を選択している。従って、米国の基礎自治体における議会年金制度の現状を把握することは不可能といえる。但し、傾向としては地方議会議員が低額な報酬でボランティア的に活動するため、年金制度を保有している自治体は例外である。以下、地方議会議員年金制度が確認できた事例の内のいくつかを紹介する。

まずは、ニューヨーク市について紹介する。「ニューヨーク市には、市議会議員を対象とした特有の年金制度はない。ただし、同市議会議員は、市職員が加入している年金制度であるNYCERB に任意で加入することができる。加入した場合の取り扱いについては、原則的に市職員に対する規定が適用(33)」される。

 ニューヨーク市議会議員の報酬は、年額112,500ドル(約1012万円)であり、米国の基礎自治体議会議員の中では高額な部類に入る。

 次に、ロードアイランド州の自治体の事例を紹介する。ロードアイランド州基礎自治体議会の調査資料である「City & Town Council Salary and Fringe Benefits Survey(July 2006)」によると、ロードアイランド州の39の基礎自治体議会の内、16の自治体で議員に対する年金制度を設けている。年金制度がある議会の大半は、既存の自治体職員用の年金制度に参加する形式をとっている。

議員年金は住民自治の賜物

 以上のように、米国には、日本のような全国一律の地方議会議員年金制度は存在しない。また、州議会議員やごく一部の地方議員において議員年金制度が存在するが、特に基礎自治体議会の大半は制度自体が存在しない。内容も日本のように一律的な制度設計に基づくものではなく、議員の職責を加味した内容となっている。また、年金を支給する自治体であっても、導入の是非は住民によって判断されており、住民の意向によって廃止することも可能である。

 まさに、米国の議員年金は「住民自治の賜物」と言える。

(33)㈶自治体国際化協会『地方公務員における年金制度及び健康保険制度』2008年