菅原直敏(神奈川県議会議員)議会報告ブログ〜千里の道も一歩から〜

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神奈川県議会議員菅原直敏の議会報告のブログです。神奈川県大和市選出。無所属。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士。

第4章 制度の現状 3.制度維持の中身

3.制度維持の中身

会員の自助努力による継続

 財政見通しが大変厳しい市町村共済会の掛金と給付の見直し案について紹介していく。

 図表5が示すように、平成23年から平成43年の20年間で、2,998億円+α(余裕額:400~800億円程度)の財政措置が必要となる。従って、地方議会議員年金制度を継続するためには、この2,998億円+αの財源措置を如何に捻出するかが重要となってくる。

 従って、地方議会議員年金制度が互助年金であることや公費負担率が制度導入当初の予測をはるかに上回り地方財政を圧迫していることを考慮すると、まず会員の掛金の引き上げ及び給付の引き下げによって対応されなければならない。

図表5 基準試算(更新後)に基づく財政累計イメージ

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出典:地方議会議員年金制度検討会『資料3 基準資試算の更新について』平成21年10月6日

 次に、図表6が示すように、掛金率の引き上げのみで対応した場合、現行の16%から29.5%に引き上げることで、3351億円の収支改善効果が期待される。また、給付の引き下げのみで対応した場合、退職年金・遺族年金を一律30%引き下げることで、3373億円の収支改善効果を期待できる。他にも両者の調整による折衷案もある。

 理論的には以上の調整で問題は解決するが、掛金率を20%以上に引き上げた場合、年金制度としての意義が失われることや、給付金の引き下げに対しては憲法29条の財産権の保護との兼ね合いから問題があるとされる。給付を引き下げる場合は、①財産権の性質、②財産権の内容を変更する程度、③財産権の内容を変更することによって保護される公益の観点からの検討が必要である(39)。

 そこで、この財源不足を補うために公費を投入するべきであるという意見が出てくる。

(39)最高裁昭和53年7月12日大法廷判決

図表6 収支改善のための方策と効果

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※収支改善効果:平成23年度~平成43年度までの累積効果額(平成23年原価ベース)

平成23年度から平成43年度までの財源不足額約2998億円+αを改善するため、仮に、給付引き下げと掛金引き上げにより対応した場合の機械的な算定結果である。

出典:地方議会議員年金制度検討会『資料3 基準資試算の更新について』平成21年10月6日

公費負担による救済案

 共済会には、年金財政が悪化した主因は市町村合併による議員数の急激な減少にあるとの思いが強い。そこで、合併特例法16条3項による激変緩和措置を求めている。中には財源不足分の全額を措置すべきという声もある。

 しかし、市町村合併がなくとも積立金は平成30年度に枯渇する見通しであり、全てを激変緩和措置で対応することは理論的には困難である。検討会の資料によると平成23年から平成43年までの20年間の財源不足分約3400億円の内、合併の影響による部分は約1883億円と試算されている。従って、激変緩和措置を行った場合でも、1883億円は共済会の自助努力によって対応しなければならない。

 以上の経過を受け、平成21年11月2日第4回地方議会議員年金制度検討会において、「給付と負担の見直し案について」と題する資料で、公費負担を利用した救済案であるA案とB案が示された。以下、両案を紹介する。

A案

 A案(図表7)は、「市町村は、市町村合併の影響を大きく受けたことから、激変緩和負担金を含めた公費負担率が当分の間、毎年50%程度となるように、激変緩和負担金を強化・延長し、給付水準・掛金・負担金を総合的に見直し」ている。この場合、「平成23年から約20年間で、未措置の合併影響分(約1,883億円)のうち、約7割(約1,296億円)が措置」される。また、都道府県は、「『公費負担:議員負担=4:6』を基本として、給付水準・掛金・負担金を総合的に」見直している。

 本案は、公費負担をお願いする国民に対して一定の配慮をした案と考えられるが、共済会側からは、「合併影響分を7割しか見ず、残りの3割は現役議員が負担すること」は受け入れがたいことや、「議員負担と公費負担が6:4であることがそもそもおかしい。元来5:5であるべきだ。16%の掛金は世界一高い年金で、またそれを引き上げるのは」いかがなものかといった厳しい意見が大勢を占めた。また、「7割措置するとういうことで仕方ないのではないか。当事者の気持ちは分かるが、一般国民の方々がどう考えるか、考える必要がある」といった、国民に配慮する意見も見られた。

図表7 地方議会議員年金制度における給付と負担の見直し状況(A案)

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※上記は、退職年金の「年金算定基礎率」及び「加算金」についても同率で削減

※特別掛金率は期末手当に対する掛金

※退職年金の額=平均報酬月額×{年金算定基礎率/150+加算率/150×(在職年数-12年)}

出典:地方議会議員年金制度検討会『給付と負担の見直し案について』平成21年11月2日に基づいて筆者が作成

B案

 B案(図表8)は、「市町村合併の影響による財源不足に対しては、激変緩和措置を3倍以上に強化」している。「市町村合併以外の原因による財源不足に対しては、「公費負担:議員負担=4:6」を基本として、給付水準・掛金・負担金を総合的に」見直している。本案は、国民に対する配慮よりも、議員の救済を念頭に入れた案と言える。

 本案に対しては、「公費負担率が5割を超え、国民の理解が得られない」という声があった一方、共済会側からはB案に対して一定の評価をしつつも、「公費負担率は本来的に5割に措置した上で、合併による影響分を全額公費で措置すべき」という声があがった。

図表8 地方議会議員年金制度における給付と負担の見直し状況(B案)

最高裁昭和53年7月12日大法廷判決

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出典:地方議会議員年金制度検討会『給付と負担の見直し案について』平成21年11月2日に基づき筆者が作成

市議会議員共済会案

 以上、検討会で議論された継続案について紹介した。しかし、この継続案は現役会員に対して厳しい内容となっており、市議会議員共済会側から大きな反発の声があがった。同共済会は平成21年12月4日の地方議会議員年金制度検討会において「地方議会議員年金制度の見直し案についての本会の考え方」という独自の給付と負担の見直し案を提案した。以下少し長くなるが、全文を引用する。

地方議会議員年金制度の見直し案についての本会の考え方】

1 議員年金の役割

地方議会議員年金は、地方議会議員の職務の重要性等に鑑み、政策的に設けられた互助年金である。

厚生労働省の調査による老齢年金受給者の年間総収入は、407万円であるが、今回検討会が行った議員年金受給者の生活実態調査によれば、議員年金受給者の年間総収入は、418万円であり、このうち議員年金が4分の1の103万円で、議員年金を除くと年間総収入額は、315万円となり、一般の老齢年金受給者の収入を大幅に下回ることとなる。

・ 議員年金は、現実に、地方議会議員退職者及びその遺族の老後の生活を保障する重要な役割を果たしている。また、地方議会議員が在職中に安心して議員活動に専念するためにも退職後の生活の安定を支えるための制度が不可欠である。このことから議員年金制度の安定的維持が求められる。

2 検討会における本会の主張

市議会議員及び町村議会議員の年金財政が悪化し、平成23年度にその破綻が見込まれるなかで設けられた今回の検討会において、これまで本会としては、次のとおり主張してきた。

・ 市町村議会議員年金財政がこのように悪化した最大の要因は、平成の大合併により極めて短期間のうちに議員年金の担い手である市町村議会議員が4割減少し、年金受給者が2割増加したことによるものである。合併特例法では、このような事態に対し「国は、その健全な運営を図るため必要な措置を講ずる」としており、年金財政悪化の合併影響分については、合併特例法に規定するとおり、国はその責任を果たすべきこと。

・ 平成14年及び平成18年の2度にわたる給付と負担の見直しにより、給付は既に3割引き下げられるとともに、市町村議会議員の掛金率は16%に引き上げられており、給付の削減及び負担は、既に限界に達していること。

・ 議員年金は、原則、議員負担6割、公費負担4割となっているが、このことが議員年金財政の構造が脆弱となる要因となっており、他の公的年金制度と同様、議員負担と公費負担の割合を5対5とすること。

平成の大合併前と比較すると、市町村議会議員数が4割減少したことにより、毎年、議員報酬だけで1,100億円以上の節減となっていること。

3 検討会で示された見直し案についての見解

11月2日の第4回検討会に総務省から示された「給付と負担の見直し案」のA案及びB案、並びに「廃止する場合の考え方」についての本会の見解は次のとおりである。

「A案」について

平成の大合併による年金財政への影響に対する未措置分(約1,883億円)の7割しか措置されていないこと。

・ 掛金率の引上げが1.5%、特別掛金率の引上げが5.5%と議員負担が大きいこと。

・ 給付の引下げが10%と大きいこと。

・ A案では合併影響分が7割しか措置されていないことから、残り3割分を議員負担及び給付の引下げで対応しようとするものであり、これは、合併特例法で定める国の責任を果たしていないこと。

「B案」について

平成の大合併による年金財政への影響については、未措置分(約1,883億円)を全額措置することとし、激変緩和負担分を4.5%から14%へと大幅に引き上げていること。

・ 掛金率が1%、特別掛金率が2.5%引き上げられていること。

・ 給付が5%引き下げられていること。

・ B案では合併影響分を全額措置することとしていることは評価できるが、議員負担と公費負担の6対4の原則を維持することとされており、そのため、掛金率の引上げや給付の引下げが行われていることは、これまでの本会の主張に沿っていないこと。

「廃止する場合の考え方」について

地方議会議員年金を廃止する場合の手立てについては、平成18年の国会議員年金の廃止の例にならうとされていること。

・ 受給資格のある現職議員が年金ではなく一時金を選択した場合の給付額については、国会議員年金の廃止の例にならい、掛金総額の63%ではなく80%とすべきであること。

4 結論

地方議会議員退職後の年金受給者にとって、議員年金はその収入の4分の1を占めており、仮に議員年金がないとしたならばその収入は一般の老齢年金受給者の8割にも満たず、老後の生活に多大な支障が生じることが予想される。このことから、議員年金制度は、基本的に維持されるべきものである。

・ 市町村議会議員年金財政が平成23年度に破綻が想定されるなかで、それを回避し、持続的に安定した給付を可能とするための見直し案としてA案及びB案が示された。

・ A案については、平成の大合併による議員年金財政の悪化について国が果たすべき責務を定めた合併特例法による国の責任を十分に果たさず、それを議員負担及び年金受給者の負担に求めようとして大幅な掛金率の引上げ及び給付の引下げを行おうとするものであり、到底受け入れることはできない。

・ B案については、合併影響分については特例負担金としての激変緩和負担金で措置するものの、なお、掛金の引上げ及び給付の引下げを求めるものである。

平成14年及び平成18年の法改正により、我々市議会議員にとって掛金の負担及び給付の削減は、もはや限界に達しているものであり、さらに負担を求めようとするB案も受け入れることはできない。

・ 議員年金制度を今後安定的に維持していくためには、議員年金財政の構造を基本的に見直すべきであり、本会が主張してきたように、他の公的年金制度と同様、議員負担と公費負担の割合を5対5とすることが必要である。 すなわち、合併影響分については、激変緩和負担金により全額措置するとともに、議員負担と公費負担の原則を6対4から5対5とする 新たな案により、財源不足額を補填することとし、掛金・特別掛金の引上げ及び給付の引下げは行わないこととすべきである。

・ 以上のことから、議員年金制度を今後も維持していくことが望ましいことは言うまでもないが、仮に地方議会議員の年金制度の廃止を行うこととする場合にあっては、国会議員年金の廃止の例にならうものとし、受給資格のある現職議員が年金ではなく一時金を選択した場合の給付額については、掛金総額の63%ではなく80%とすべきである。

以上引用部分

市議会議員共済会案に対する考察

 市議会議員共済会の給付と負担の見直し案の内容を簡潔に要約するならば、市町村議会議員年金の給付と負担の水準を現状のまま維持した上で、全てを公費で措置するべきであるということである。このような考え方は非常に大胆かつ挑戦的であり、年金制度維持を求める関係者をも驚かせた。そこで、この市議会議員共済会の案についていくつかの考察を加える。

まず、市町村議会議員年金財政が悪化した最大の要因を平成の大合併に求めているが、実際の悪化の主因は共済会が然るべき自助努力を行ってこなかったことにある(詳細は第5章2)。なぜなら、平成の大合併が行われる遥か前である昭和40年代に、既に年金財政は破綻の危機に瀕しており、公費負担という例外措置を用いて制度を延命してきた上に、仮に合併がなかった場合でも平成30年度には積立金が枯渇する見通しであったからである(40)。従って、平成の大合併は年金財政の悪化を早めたことは事実であるが、根本的な原因とまでは言えない。

次に、公費負担率を公的年金同様に4割から5割に引き上げることを要求している点についてである。年金制度の沿革の部分で触れたが、議員年金に対する公費負担は例外的措置であり、会員の掛金で賄われることが原則である。従って、4割の公費負担でも制度趣旨を逸脱している可能性が高い。近年は、公費負担率が上昇した結果に着目して議員年金を公的年金に準じて考えようとする動きがあるが、法律解釈の許容範囲を超えている。そのような制度を求めるのであれば、現行法を廃止して、新規の法律に基づいた公的年金制度として再出発しなければならない。

 最後に、市町村合併によって1100億円の議員報酬節減が図れたことに関して、地方議員も身を削ったとし、その額のいくらかを年金財政に措置するように求めている点についてである。市町村合併がどのような経緯で行われたにせよ、そこで節減された費用は全て住民の為に存在するのであって、議員年金の財政を補填するためではない。また、実際に身を削ったのは、地方議員ではなく合併による不便や不利益を覚悟で合併を支持した住民である。

(40)地方議会議員年金制度検討会『資料4 合併がなかったと仮定した場合の財政見通し』「『合併なし試算』結果 市+町村」平成21年10月6日

国民の負担も限界に達している

 後述するが、地方分権改革の推進により、今後20年間の試算は共済会が示したものよりも更に厳しくなることが予測される。激変緩和措置を全額公費で措置し、議員負担と公費負担を公的年金同様5:5にしても、年金財政が行き詰まることは確実である。しかし、本案は、仮に市議会議員共済会案が結実したが、再び収支が悪化した場合どのように対処するのかについてまったく触れていない。公的年金を超える公費負担を国に求めるのだろうか。あるいは、全ての負担を将来の会員に清算してもらうのだろうか。

 同案で最も懸念される点は、自分たちの運営責任には一切触れず、国や国民に対してのみ負担を求めているという点である。後述するが、国民の公費負担率は既に法の許容する範囲を超えており、これ以上税金を投入する論拠は乏しい。このような前提を考慮せず、国民にお願いをする側が一方的に給付の履行を求める姿勢は、望ましいとは言えない。

 国民の負担も既に限界に達していることを念頭に入れなければならない。

市町村議会議員共済会が頑なな理由

 市町村議会議員共済会が自分たちの掛金と給付の見直しに頑なな理由は、近年の急激な待遇悪化によるところが大きい。年度別の掛金総額と給付年額の相関表(図表9)を作成した。回収年数に注目するとわかりやすい。平成15年以降、明らかに制度の優位性が小さくなってきていることがわかる。仮にA案を採用した場合、平成14年度以前の会員との給付水準の差は実質的に3倍以上の開きとなり、現役会員の中には、国民年金よりも回収率の悪い年金制度は受け入れられないという考えを持つ者も多い。

平成14年度末と平成18年度末に駆け込みで退職をした議員がいた理由も、この相関表を見ればよく理解できる。仮に、再び法改正が行われれば、平成22年度末に駆け込み辞任する議員が相当数でてくるだろう。このような現・旧会員間の不均衡は是正されなければならない。

図表9 年度別の掛金総額と給付年額の相関表(理論値)

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※掛金総額×1/9~3/9

(試算前提)昭和46年度以前は参考値/給付年額は3期12年議員を務めた者が、その退職した年度によって受け取れる年金額/平成19年度以降の負担金率には激変緩和措置を含む/平成23年度以降はA案に基づく値/標準報酬月額40万円の場合(期末手当は5カ月で計算)

都道県議会議員共済会が平静な理由

 検討会では、市・町村議会共済会が強硬な半面、都道県議会議員共済会は比較的平静を保っている。その理由は、市町村と違い合併の影響を受けないため、掛金と給付の見直し幅が小さいまま、収支の均衡を図れるためである。例えば、報酬額がほぼ同額の横浜市会議員と神奈川県議会議員の掛金総額と給付年額を比較すると、同じ給付年額を受け取るために、横浜市会議員は、現状で400万円以上、A案が採用された場合は600万円以上、神奈川県議会議員より多くの掛金を支払わなければならない。

 しかし、都道県議会議員共済会は母体数が47議会と少ないため、各議会の動向が直接的に年金財政に影響を及ぼすという脆弱な基盤の上に成り立っていることも事実である。都道府県財政が厳しい中、大幅な定数・報酬の削減が行われる可能性も否定できず、県同士が合併する可能性もゼロではない。このような場合、比較的健全とされる都道県議会議員共済会の収支状況も急激に悪化することになる。

図表10 横浜市会議員と神奈川県議会議員の年金給付水準の比較

(在職期間12年の場合の理論値)

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制度を維持する際の留意点

 本書の立場は制度廃止であるが、どのような形であれ、仮に制度を維持するのであれば次の点について確認しなければならないと考える。

 第一に、将来にわたって年金財政が安定的であることをしっかりと示すことである。今までのように、疑問点を残したままに法案を通すようなことは絶対に避けるべきである。国会の問題先送り体質が現在の地方議会議員年金の惨状を拡大させたからに他ならないからである。

 第二に、次に導入される公費負担率を上限とすることである。今まで、公費負担率の上限設定を欠いていたために、共済会が本来なすべき自助努力もなされずに、年金財政の悪化を招いた。これ以上の公費負担の引上げを行わないことを国民に約束することが重要である。今後一切の例外を認めてはならない。共済会に後がないことを示す必要がある。

 第三に、年金財政が破綻した際の責任の所在や制度の清算方法を詳細に定めておくことである。年金財政の試算を誤って年金財政の収支が悪化しても、公費負担を投入できないわけだから、自ずと清算しか道はない。最悪の事態も想定しておくことは不可欠である。予め立法措置をしておけば、憲法29条等の複雑な問題も生じない。

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