偉大なる挑戦と日本の地方議会の問題点
統一地方選挙が終了し、各地方議会でも臨時会が開催されています。新人議員は初々しくも、これから始まる新しい舞台に心を躍らせているのではないでしょうか。新人議員の4年間の活躍に期待をしたいと思います。
その一方で、惜しくも涙を飲んだ人達もいます。落選者の人生模様も様々で、4年後の再起を目指すものもいるでしょうし、刹那の中で去っていく者もいます。日本の地方議員選挙は、ある種の人生の総力戦の意味合いがあるので、落選は非常に厳しいものがあると思います。
今回は大和市議会議員選挙における1人の若者の偉大なる挑戦を紹介したいと思います。
30歳の若者の決意
井上勇児君(30歳)から大和市政への挑戦のお話を頂いたのは、ちょうど今から一年ほど前のことでした。日本の現状を憂い、生まれ育った大和をよりよくしていくために、彼なりに熟慮しての決断だったと思います。8年来の友人として話を伺いました。
しかし、私は彼が出馬すること自体を考え直すように勧めました。それは、彼に議員としての資質がないと言うわけではなくて、日本の地方議会は、会議自体はさほど多くないにも関わらず、その議会運営の方法が排他的なため、一般的な会社員が議員になるためには仕事を辞めざるを得ないからです。
市議会議員は街のことを決める非常に大切な役割であると考えますが、人生の糧を得る仕事と天秤をかけるような類のものではないというのが私の考えです。ましてや、井上君のようにそれなりの企業に勤める若者が、その職を辞して選挙に出て、仮に落選をすれば二度と戻ることができないのが日本の社会です。彼の人生を考えての助言でした。
堅い信念と挑戦
しかし、井上君の決意は堅く、市政に挑戦する気持ちは揺るがないようでした。そこで、私は1つの提案をしました。
仕事を辞めないで挑戦をして、当選後もできる限り仕事を辞めないで続けていたらどうだろうか
という提案でした。
こうすれば、仮に落選しても仕事を辞める必要もないし、何よりも仕事を辞めないで市政に挑戦すること自体が、現在の歪んだ日本の地方自治制度に対する大きな挑戦になると考えたからです。
会社の規約を調べたところ、選挙に出てはならない規則もなく、当選後も議員をやりながら仕事を続けることも問題がないようになっていました。但し、これは会社の組合から議員になる者を想定しているためでもありました。
この組合議員のための規定を逆手にとって挑戦することを考えたのです。
私もできる限りのバックアップをすることを約束しました。
仕事を辞めずに行う活動
昨年末から井上君の果敢な挑戦が始まりました。仕事に行く前と帰宅後に駅前に立ってビラを配布し、休日や有給を利用してビラをポストに投函する等の支援者拡大を図る。まさに血の滲むような毎日が始まりました。
「元会社員」の候補者は多くいましたが、「現会社員」の候補者は彼だけでした。全国的にも彼だけだったのではないでしょうか。
最初は心もとなかった彼の活動も段々と支援の輪が広がり、応援者も目に見える形で増えていきました。
多くの候補者は専業で選挙に向けた後援会活動を行う中、彼1人が現職の会社員として二束のわらじで活動を続けました。辛さで心が折れそうになることもあったかもしれません。
選挙期間の1週間は有給をとって訴えました。仲間のボランティアが彼の活動を支えました。
しかし、結果は100票ほど届かず、涙を飲みました。
本当に惜敗でした。
但し、現職議員やずっと前から専業で選挙活動を行ってきた他の落選候補者の票を上回ったことを考えると、大健闘をしたと思います。
この結果に対して、仕事を辞めて取り組んでいたら当選していたという人もいますが、私は仕事を辞めずに挑戦したことに意義があったと思いますし、その困難な壁に敢えて立ち向かった井上君の挑戦に大いなる敬意を表したいと思います。
日本の地方議会の問題点
この挑戦を通じて井上君と私が訴えたかったことは、日本の地方議会の根本的なあり方を根底から改める必要性です。
議員報酬削減の議論が花盛りです。名古屋市議会では報酬を半減する条例が可決されました。その一方で、報酬を削減すると議員のなり手がいなくなると主張する人もいます。
報酬の増減の議論は有権者に非常に分かりやすいのですが、実は根本的な問題は報酬や定数にあるのではありません。地方議会に多様な人材が入っていくことを拒む制度自体にあると私は考えています。
その1つが選挙制度と議会運営です。
選挙制度自体が複雑で分かりにくく、お金がかかるために、多様な人材が議会に挑戦することができません。また、会議数が少ないにも関わらず、平日の昼間に開催される為に、特に会社員等は仕事を辞めなければ議員になることも叶いません。
よく地方議員は自営業者や地主の集まりだと揶揄する人がいますが、それは制度がそうさせているだけです。現在の地方議会制度では、比較的お金と時間に融通がきく人しか挑戦できない仕組みになっているのです。
逆に、そのような仕組みを根本的に変えれば、報酬が低かろうともより多様な人材が議会に入ってくるのです。少なくとも私が調査・見聞している欧米の地方議会はそのような成り立ちでできているものが少なくありません。
井上君のような志ある人材が、人生を賭けなくても挑戦できる気軽な議会こそが、一番身近な住民自治を扱う市町村議会には求められるのではないでしょうか?
皆さんも考えてみてください。