介護・福祉の施設・活動を巡る旅36件目〜この子らを世の光に(糸賀一雄)?滋賀県立近江学園
滋賀県立近江学園を訪問し、植田重一郎園長より、施設の沿革と概要の説明を受けた後、施設内を視察しました。
近江学園は昭和21年11月に当時滋賀県職員であった糸賀一雄先生らを中心として設立された知的障害児及び孤児収容施設です。昭和23年4月、児童福祉法施行に伴い「滋賀県立近江学園」となりました。6万8千平米(東京ドームの1.5倍の広さ)という広大な敷地に、緑に囲まれた施設群が広がっています。
1.この子らを世の光に〜糸賀一雄の痕跡
「この子らを世の光に」と言えば、日本で福祉に関わるものであれば知らない者はいない程、有名な糸賀一雄先生の言葉です。
「『この子らに世の光を』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく、この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよ磨きをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。この子らが、生まれながらにしてもっている人格発達の権利を徹底的に保障せねばならぬということなのである。」
(糸賀一雄著「福祉の思想」より)
福祉学のテキストでしか糸賀先生に触れたことはありませんでしたが、今回の調査では先生にかかる門外不出の資料も拝見することもでき、改めて先生のエネルギーを時代を超えて感じることができました。
まず、興味深かったのが先生の経歴です。京都帝国大学出身のエリートだったためか、若くして滋賀県庁内の様々な要職を歴任しています。昭和17年頃には県職員と兼任で県警の警部を勤めています。現在の県庁・県警の組織関係ではありえないことですが、戦前はこのような兼任もあったようです。また、近江学園は民間施設として開設されていますが、何故県職員であった先生が園長になることができたのかは、現園長にお伺いしても、先生の経歴書を見ても判明しませんでした。
自らを白い共産主義者と名乗り、職員の給与をプールし、子供たちの支援にあて、残った部分を職員に再配分するようなことも行っていたそうです。現在であれば、おおよそ許されないことですが、当初はそれくらいの熱意を持って臨んでいたことの表れかもしれません。現園長から説明を頂いた、耐貧の生活、不断の研究及び46時中勤務という、過酷な先生の考えも、日本の福祉の黎明期には必要な要素であったのかもしれません。
この中で不断の研究の理念は現在も生きており、近江学園の職員は年初に自らのケアについて研究目標を設定し、発表会を行っているとのことでした。科学的根拠(エビデンス)に基づく支援のためです。
先生の影響は近江学園に留まらず、派生して様々な施設が県内に設置されただけではなく、県外にも及びます。例えば、神奈川県秦野市にある弘済学園は、近江学園の流れを汲む千葉県の日向弘済学園が移転したものです。
この他にもここに書ききれないくらい糸賀一雄先生のお話しをお伺いしましたが、先生亡き後においても、多くの影響を世の中に与え続けていることを感じることができました。
2.職業訓練
近江学園の特徴として、職業訓練が挙げられます。これは全国の児童施設にはない取り組みだそうです。
児童は木工と窯業の二つのコースのどちらかを選択し、日々職業の訓練に取り組みます。木工と窯業の2種類しかありませんが、これは彼らが将来的にこのどちらかの分野に進むことを目指しているのではなく、この作業を通じて、わからないことを人に聞いたり、人と対話をしたり、8時間働く感覚をやしなったりといった仕事をするために必要な感覚を身につけさせることに主眼を置いています。
従って、作業場にはタイムカードも置いてあります。もちろん給与計算に必要なわけではなく、通常の職場にはたいていタイムカードがあるため、職業訓練として体験をすることに意味があります。
児童が作成した作品を拝見しましたが、中には世の中に出して商品になるような品質のものもあり、実際に売られているとのことでした。現在の天皇陛下が皇太子の時に近江学園に行啓された時に座られた椅子などは大変素晴らしいものでした。
近年はアールブリュットとして、様々な作品を展覧しているそうです。
3.障害の多様化とニーズの変化
近江学園は戦災孤児の収容施設として始まりました。戦後という時代背景があったためです。その後、高度経済成長期には障害児がその中心となり、現在では虐待や発達障害も含めた多様な障害への対応が求められています。また、大規模施設から小規模な小舎への転換も時代の要請となっています。
これらの支援の課題を、①被虐待児の育ち直し、被虐待からの回復、②重度児の生きにくさの軽減及び③軽度児、発達障害児の自立支援に同学園ではまとめています。
施設の建て替えも検討される中で、これらの課題にどのように向き合って行くかが重要であるとの園長のお考えでした。これは神奈川県にも当てはまることです。
平成28年7月26日に神奈川県立津久井やまゆり園で起こった惨事によって、神奈川県のみならず全国的に障害者施設のあり方が問われています。施設の安全をどう守るかという防犯面の議論も大切ですが、改めて障害を持った方々と如何に共生社会をつくっていくのかということに目を向けていくこと抜きには語れません。
現代に生きる私たちにこそ、「この子らを世の光に」という糸賀一雄先生の理念を見つめ直す必要があると強く感じました。
Stay hungry, Stay foolish!!
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